夢に見るユメ
 
 
 
暖かく、柔らかく、優しい日差し。
 
肌に、体に感じるそれが心地よく、本当はまだ目を開けたくはなかった。
 
だけど
 

「ステラさん、ステラさん」
 

日差しよりも格段と落ち着く優しい声に呼びかけられ、ステラはのろのろと瞼を開いた。
 
ぼやける視界の片隅に、鮮やかなピンク色が映る。
 

「………ラクス、さん……?」
 

優しい声と、ピンクの髪の持ち主。
ステラが知っている女性の中で、一番好きな人。
 

ラクス・クラインが目の前にいた。
 

姿を確認しようと、ステラはごしごしと目を擦る。
すると、ラクスがあらあらと声を上げた。
 
「擦ってはいけませんわ。せっかく綺麗にして頂いたお化粧が落ちてしまいますよ」
「………おけしょう?」
 
ラクスに目元にやっていた手を取られながら、ステラは小首を傾げた。
 

「ステラ……お化粧、してるの………?」
 

どうして?
なんで?
 

ステラは不思議でならなかった。
 

自分は普段化粧などしない。
顔に何かつけるのは好きじゃない。
 
なのに、今自分は化粧をしていると言う。
 

どうして?
なんで?
 

ぱちぱちと目を瞬かせるステラに対し、ラクスはくすくすと笑った。
 
「どうしました、ステラさん。先程やって頂いたばかりではありませんか。眠っている間に、忘れてしまいましたか?」
「………さきほど?」
 
何のことだか、ステラにはさっぱりわからなかった。
 

「さぁ、ステラさん。もう一度鏡の前でドレスをチェックしましょうね」
「……ドレス………?」
「さぁさぁ。こちらですわ」
 
状況の理解のできていないステラには気付かず、ラクスはステラの手を取り立ちあがらせると、大鏡の前まで引っ張った。
ステラは歩きにくい足元にもたつきながらも、ラクスについていく。
 
ちょこんと、鏡の前に立った自分を見た。
ゆっくりと目を瞬かせる。
 

「………しろ………」
 

真っ白。
 
空の雲のような。
天使の羽根のような。
雪のような。
 
そんな柔らかいイメージの純白。
 

胸元はきつめに締められているが、その分大きく広がったスカートのふわふわさが際立っており、少し身体を翻すとひらりと舞う。
 

そんなドレスを身体に纏い、頭にはティアラと腰にまで届くベール。
 

その姿はまるで…………
 
 
 
「およめさん、みたい………」
 

自分の今の姿を、ステラは的確にそう表した。
 
どうして自分がこんな格好をしているのかはよくわからなかったが、とりあえず思ったことを述べた。
 
ステラの隣に膝を折り、スカートを綺麗に伸ばしていたラクスは微笑を漏らす。
 
「みたい、ではありませんわステラさん。あなたは本物の素敵なお嫁さんなのですから」
「………ステラが……?」
 
お嫁さん………?
 

ステラは緋色の瞳をまん丸にし、ラクスを見遣った。
 
「ステラ……誰の、お嫁さん………?」
「え?」
 
ステラの質問に、今度はラクスが不思議そうに小首を傾げる。
 
「誰のとは………もちろんあの方ですわ」
「あの方………?」
「えぇ、」
 
ラクスが名を出そうとしたその時、ドアが軽やかにノックされた。
それにラクスは言葉を止め短く返事をし、ドアに駆け寄る。
そっと開くと………
 
「まぁ、キラ」
 
茶の髪の青年、キラ・ヤマトが入って来た。
キラはラクスに笑いかけると、おもむろにステラに目をやる。
 

「わぁ……綺麗だねステラ」
 
とてもよく似合ってるよ。
 

穏やかに微笑み、キラは心からそう言った。
 
しかし、ステラは何の反応もせず。
 
ただじぃっと、キラを見つめている。
 

その真っ直ぐな視線に、キラとそしてラクスは顔を見合わせた。
 

「ステラ?」
「ステラさん?」
 

二人から名を呼ばれ、ステラはやっと動きを見せる。
 
こてんと、首を傾げ
 

「ステラ……キラさんのお嫁さん………?」
 
と尋ねた。
キラとラクスは目を丸くし、再び顔を見合わせる。
 
すると、ふいに揃って小さく吹き出した。
 

「ステラ、何を言ってるの。君は彼のお嫁さんだろう?」
「か、れ………?」
「そうだよ。それに………」
 
キラはいったん言葉を置き、ラクスの肩を抱き寄せる。
そしてにっこり笑って
 

「僕のお嫁さんは、ラクスだからね」
 

柔らかく、そう言った。
ラクスも穏やかに微笑む。
 

寄り添う二人を瞳に映し、ステラはこっくりと頷いた。
 

「うん……キラさんのお嫁さんは、ラクスさんだけ…………」
 
それは当然。
 

とステラは何度も頷く。
 

「でも…………」
 

じゃあ、ステラは?
 
ステラは誰のお嫁さんなの?
 

不思議で、不思議で。
 
緋色の瞳はあたりをさまよう。
 

だが決してあてがないわけではなく。
 
 
 
不思議に思う心の奥には、望みもあり。
 
 
 
たった一人の姿を探す。
 
 
 
「………どこ?」
 

ステラの、大好きな人はどこ?
 
 
 
きょとりと瞳を瞬かせるステラに、キラとラクスは微笑んだ。
二人揃ってドアに目を向ける。
 
つられて、ステラも目を向ける。
 

カチャリと、音を立てドアが開いた。
 
ゆっくりと開いていくそれの隙間から、徐々にドアの向こうにある姿が見えてきた。
 

「………ぁ、………」
 

思わずステラは小さく声を漏らす。
 

感情のあまり見えなかった表情が、次第にほぐれていく。
 

にこぉと、嬉しそうな、幸せそうな笑顔になる。
 

「………ン……」
 

ゆっくりと、彼に両手を伸ばす。
 
そうしたらいつものように、抱きしめてくれるから。
 

大好きで、大好きで。
 

ずっとずっと一緒にいたい。
 

だから
 

「ステラ………お嫁さんに、なるの………」
 

ずっと、まもってくれるって言った人の…………
 
 
 
「シンの…………」
 
 
 

―――――俺がどうかした?
 
 
 
………え?
 
 
 
 
 
 
 

 
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