メイリンは震えていた。
膝の上に置いた手を、固く固く握り締め。
小さくなって震えていた。
ここは、敵である艦・ガーティ・ルーの中の一室。
メイリンは今、そこに軟禁状態で閉じ込められている。
なぜこのようなことになったかはよく覚えていない。
事の起こりは、ミネルバが停留していたザフトのある軍事施設に、アーモリーワンでダッシュされた三機のガンダムが潜入してきたことだ。
三機のガンダムは、何の思惑があったのか、施設内を破壊して回った。
シンやレイ、そしてメイリンの姉であるルナマリアらパイロットたちが、各々の機体で抗戦する中、メイリンも離れてしまっていたミネルバに戻ろうとした。
そこで、敵に遭遇してしまった。
戦慄の走る中、気力を奮い立たせ、持っていた銃で応戦しようとした。
セーフティーを外し、引き金に手をかけ、引いて………
メイリンの記憶は、そこで途切れていた。
それ以降の記憶は、一切ない。
銃を放つ前に、気絶させられたらしい。
目が覚めた時にはすでにこの艦で拘束されており、施設からは遠く離れていた。
殺される、と恐怖したメイリンを待っていた処遇は、意外なものだった。
この艦の指揮官らしき仮面の男は、メイリンを殺すことも、尋問することも許さなかった。
人質。
それがメイリンに与えられた、この艦での役割だった。
命は救われた。
しかし、メイリンにとってこの状況は受け入れがたい、現実だった―――――
部屋の椅子に腰掛け、メイリンは身を固くし、泣くことだけは必死にこらえていた。
それでも、打ち寄せてくる恐怖は、どうしようもなかった。
「………恐いよ……」
好奇の目が。
畏怖の目が。
憎悪の目が。
自分を、コーディネイターを、見る目が、
恐い。
恐い、恐い、恐い………!
いや、嫌だよ。
助けて。
誰か助けて。
シン………レイ…………
「お姉ちゃん………!」
いつも自分を護ってくれていた人々が脳裏をよぎては、過ぎてゆく。
ここは敵ばかり。
ここは知らない人ばかり。
ここは、ナチュラルばかり………
「なんだ、泣いてんの?」
「!」
ふいに響いた呆れたような声に、メイリンは体を弾かせた。
恐る恐る声のした方を振り返ってみると、一人の少年がドアの所に佇んでいるのが目に入ってきた。
「あなた………」
メイリンは少年に見覚えがった。
青、というよりは水色の髪と瞳。
外観年齢より、若干子供っぽく受け取れる表情。
メイリンが、施設で遭遇した敵だ。
「……な、なん、ですか………」
すくみ上がりながら声を出すメイリンに、少年――アウルは肩をすくめて見せる。
「そんな恐がることかよ。ボクはただ泣いてるかどうか聞いただけだろ」
「………な、泣いてなんか、いません………」
事実だ。
メイリンは震えてはいたが泣いてはいない。
ずっと我慢しているのだから。
アウルはふーんと頷き、ずかずかとメイリンに近づいた。
そして無遠慮にその顔を覗き込む。
「確かに、泣いてない………けど、泣きそうじゃん」
にやりとした笑顔と共に放たれた言葉に、メイリンはかぁっと赤面した。
「そ、そんなことないよ!」
「お、地が出たね」
思わず声を荒げたメイリンにアウルは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
メイリンははっと口をつぐんだ。
奇妙な敗北感と、言いようのない恥ずかしさに見舞われ、押し黙る。
アウルはあれ?と首を傾げた。
「なんだ。今度は怒ったのか?忙しい奴」
「………っ」
おかしそうに笑うアウルをメイリンは睨みつけた。
その瞳には、うっすら涙が滲み出している。
「あ、やっぱ泣くんだ」
「………誰のっ」
メイリンは怒りを表にだそうと意気込んだが、意表をつかれた。
いきなり手をつかまれ、引っ張り立たせられる。
「な………」
驚きに目を丸くするメイリンに、その手をしっかり掴むアウルはにっと笑って見せた。
「部屋にずっといるから暗くなるんだっての。外に出ようぜ」
「え、ちょ……!」
メイリンが返事をかえす前に、アウルはメイリンを引っ張って部屋から出た。